福島原発事故にかかる県民健康調査の2つの意義

福島県民202万人全員に対して、放射線に対する健康調査が行われるとのアナウンスがありました。
この調査に関して、医師かつ疫学研究者である私自身の個人的な見解をまとめておきます。


この健康調査には、2つの大きな意味があると考えています。


1つは、原発事故時に県内にいた住民の不安を軽減するものであるいうこと、
もう1つは、未来の住民へ対する「知的な財産」であるということです。


最初の1つは読んでそのままの意味です。
定期的に検査や診察を行って健康状態をチェックすることで、病気が起こっていないか、起こっているとすればどこが悪いのか。放射線の影響を評価するためなので、項目が少々違うことはあると思いますが、いつも行っている健康診断やがん検診などと同様の捉え方です。


もう1つは、言い換えると、今後もしも今回同様の事故が世界のどこかで起こった場合に、その周辺の住民に対する健康状態を予測し、より良い対策を行うための重要資料としての調査です。
このことを話すと必ずと言っていいほど、「私たちは実験材料なのか、モルモットなのか」と言われます。確かに否定はできません。しかし、今回の事故の特徴としては、長期間低線量の被曝が予想されるもので、今まで人類が経験したことがないものです。経験したことがないものは、予想や予測はできたとしても、それが正しいかどうかの判断は誰にもできません。決めるのは、あえて言えば時間と環境とヒトの体です。それを評価するために今回の調査が必要なのです。影響があるとすれば何がどの程度の確率で起こるのか、逆に影響がみられないということも一つの結果です。
対象は202万人、期間は、遺伝的影響を評価するのであれば何十年の単位、100年以上に及ぶ可能性もあるでしょう。これだけ大規模な健康調査は、世界的にも類を見ないでしょう。それだけに、今念入りな計画が立てられていることだと思います。すぐにスタートできないのはそのせいもあると思います。(学術的な大規模コホートでは計画に数年かかることもざらです。)
現在は、医学研究体系も整備が進みつつあり、方法論も倫理的配慮もきちんと定められています。この調査も強制的なものではなく、同意は取るでしょうし、嫌なら拒否することも可能なはずです。(←決まっていないので正確には言えませんが、強制的にやったとしたらそれはそれで問題です)しかし、健康状態を把握して、影響があるとしてもないとしてもその結果をしっかり見て今後につなげることは非常に大切なので、できるだけ受けてほしいと思っています。


私は一人の医師として、また疫学の研究を行う者として、この調査がもつ意義はしっかり理解しておきたいと思います。もしかすると、国内の医療関係者、特に疫学研究者の総力を結集する時なのかもしれません。私もこの調査に何らかの形で関わる可能性は十分考えられます。その時は、地元のためにも、私はいかなる労苦をも厭わないと考えています。